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日付: 2015年4月22日
投資運用アラート

2015年3月24日、金融商品取引法の一部を改正する法律案(以下「改正法案」といいます。)が、閣議決定され、同日、国会に提出されました。今回の改正で特に注目されるのは、集団投資スキームに関する適格機関投資家等特例業務(いわゆるプロ向けファンド業務)に対する改正です。適格機関投資家等特例業務は、従前、外国籍ファンドが日本の投資家から投資を受け入れる場合を含み、広く内外のファンドに利用されていたライセンス規制の例外規定です。

改正法案は、国会における審議の結果、多少の微修正がある可能性はあるものの、本通常国会中に成立することが見込まれます。そして、改正法案が成立すれば、公布から1年以内に施行されます。今回の改正によってもたらされる新たな規制枠組みにつき、その具体的な内容の確定は、国会において成立した改正の内容、また、成立後に予定される関係政省令の改正を待つ必要がありますが、今回の改正は、日本の投資家を抱える外国籍ファンドを含み、プロ向けファンドのあり方に大きな変化をもたらすものです。

外国籍ファンドに対する金融商品取引法上のライセンス規制

外国籍ファンドが日本の投資家から出資を受け、運用する場合、原則として、対応するライセンスを取得(登録)するか、ライセンス規制にかかる例外規定に依拠することになります。個々の外国籍ファンドが金融商品取引法上定められる種々の例外規定に依拠することができるかは、概ね、証券の性質及びかかる証券の発行体たるファンドの性質(すなわち、会社、投資信託又はパートナーシップといったファンドの形態)によって判断することになります。今回の改正法案は、いわゆる集団投資スキームと呼ばれる組合型のファンドに対する例外規定を改正するもので、かかる例外規定に依拠する外国集団投資スキームの典型的な例としては、パートナーシップ、リミテッド・パートナーシップ、また、リミテッド・ライアビリティー・カンパニー(LLC)があります。

なお、日本法における「組合」と、米国法における「パートナーシップ」の概念は同一ではなく、例えば、米国法において厳密に「パートナーシップ」として組成されていないファンドであっても、金融商品取引法の適用にあたっては、「組合」として、それに対応した規制を受ける可能性があることに注意が必要です。すなわち、米国における信託として組成されたファンドであっても、当該ファンドの構成やその投資する資産の性質により、日本法上は「組合」、すなわち外国集団投資スキームと取り扱う必要がある場合もあります。同様に、LLCの持分についても、LLCの構成やその投資する資産の性質により、日本法上は外国集団投資スキーム、あるいは他の種類の証券に該当する可能性があります。

日本国債の金利が落ち込む中、約127兆円(1.06兆米ドル)の運用資産規模を有す、世界最大の公的年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が管理運用方針を変更し、投資先資産のうち、外国債券、外国株式の割合を大幅に拡大する旨投資戦略を変更したことに象徴されるように、昨今、日本の保険会社、年金基金、また投資信託は、外国籍ファンドへの投資を拡大する傾向にあるようです。拡大する外国籍ファンド投資のうち、相当部分が、米国籍ファンド又は米国の投資顧問業者により運用される外国籍ファンドに向かっているものと考えられますが、今後、こうしたファンドが日本の投資家から投資を受ける場合、ストラクチャリングにあたり、今回の改正法案による規制枠組みの変化も考慮すべき要素になるものと考えられます。

現行法における適格機関投資家等特例業務

金融商品取引法第63条は、集団投資スキーム(組合型ファンド)について、適格機関投資家等特例業務につき、ライセンス規制の例外規定を定めます。集団投資スキームは、かかる例外規定に依拠することで、私募による募集、また、ファンドの運用を、対応する金融商品取引業登録をすることなく行うことができます。具体的には、集団投資スキームに該当するファンドの無限責任組合員や業務執行組合員は、第二種金融商品取引業の登録なくして当該ファンド持分につき、私募による自己募集をすることができ、また、投資運用業として登録することなく、投資家から出資され、又は拠出を受けた財産の運用業務を行うことができます[1]
適格機関投資家等特例業務は、ファンド持分を私募で、かつ、自己募集によって募集される場合で、さらに、以下の条件を満たす場合に依拠することができます。

  1. 当該ファンドの投資家に適格機関投資家[2]が1人以上いること。
  2. 日本の投資家で適格機関投資家でない投資家の数(勧誘された投資家ではなく、実際に持分を取得した投資家の数)が49以下であること。
  3. 一定の転売制限が付され、出資契約等にその旨記載されること。
  4. 日本の投資家対する勧誘行為に先立ち、関東財務局(外国籍ファンドの場合)に届出を行うこと。届出は、ファンドの名称等、一定の事項を除き、一般には公開されていません。 

 上述のとおり、適格機関投資家等特例業務は、無限責任組合員や業務執行組合員による自己募集の場合にのみ依拠することができるものですが、内外のファンドに広く利用されており、適格機関投資家等特例業務の例外規定に依拠するファンドは、現在約3,000にのぼるとされます。

改正法案の内容

改正法案における、適格機関投資家等特例業務に関する主要な改正点は、次のとおりです。

  • 適格機関投資家等特例業務の規制強化 改正法案は、次のように、適格機関投資家等特例業務を行うことができる者を著しく制限します。 
    • 欠格事由の導入:
      改正法案によると、一定のファンドは適格機関投資家等特例業務を行うことができないとされます。外国籍ファンドの関係では、日本における代表者を定めていない場合、適格機関投資家等特例業務を行うことができないことに注意が必要です。
    • 添付書類等届出の拡充、情報公開:
      改正法案によると、事前届出における添付書類が追加されます(なお、内閣府令により追加される可能性があります。)。また、かかる事前届出は、一般に開示されると同時に、当該ファンドも一定の方法による開示義務を負うことになります。
    • 一般投資家の制限:
      適格機関投資家でない一般投資家の範囲が、一定の投資経験豊富な投資家及び当該ファンドの関係者に限られます。ただし、ガバナンス要件や、公認会計士による監査を受けるなど、一定の要件を満たすベンチャー・ファンドについては、出資できる一般投資家の範囲が少し緩和される予定です。
  • 行為規制の強化:
    適格機関投資家等特例業務に依拠するファンドは、現在も、一定の金融商品取引法が定める金融商品取引業者又は投資運用業者に対する行為規制を受けますが、改正法案では、かかる行為規制が強化されます。例えば、適合性の原則、契約締結前の書面交付義務、広告規制、分別管理の確保といった行為規制が追加して適用されます。
  • 帳簿書類作成・保存義務及び事業報告書作成・提出義務
  • 監督庁による監督強化:
    例えば、改正法案によると、一定の場合、現行法上提出は不要とされる、当該ファンド持分にかかる契約(パートナーシップ契約や信託書類等)の提出義務が課されることになります。
  • 罰則の強化

改正法案によれば、改正前に現行法に基づいて届出をしたファンドについては、当該ファンドの運用業務が終了するまでの間、投資運用業の登録をすることなく、適格機関投資家等特例業務に依拠して、ファンドを運用することができるとされます。もっとも、こうした既存のプロ向けファンドに対しても、新たに導入される規制枠組みは適用され、帳簿作成・保存義務や事業報告書作成義務を負うことになります。さらに、既存の外国籍プロ向けファンドについては、改正法案によると、日本に代表者を置くことが必要になるものと考えられ、これは、コンプライアンス上、重大な変更です。改正法案上、かかる日本における代表者要件は、施行から6ヶ月の猶予期間を認める内容となっており、同期間中に対処することが必要となります。

改正後の具体的な規制枠組みの全容は、改正法案が国会で成立した後、関係政省令等の整備を通じて、明らかになるものと考えられます。また、特に、外国籍ファンドについて、改正法案が導入・強化する規制の適用に関する事項は、政省令で定められることとされています。

以上のように、今回の改正は、日本のファンド規制に大きな影響をもたらすもので、引き続き改正の動きについて注視する必要があるものと考えられます。

Notes:

[1] なお、外国集団投資スキームの場合、運用業務に関し、別のライセンス規制の除外規定に依拠することも可能です。すなわち、① 日本の投資家全員が適格機関投資家等であること、② 日本の適格機関投資家等たる投資家の数が10未満であること、③ かかる日本の投資家全員の投資合計額が、当該ファンド全体が受けた財産の出資又は拠出総額の三分の一を超えないことという3要件を全て満たす場合、投資運用業の登録なくして運用業務を行うことができます(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令16条1項13号)。

[2] 「適格機関投資家」とは、有価証券に対する投資に係る専門的知識及び経験を有する者をいい、金融商品取引法2条3項及び金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令10条1項に定義されます。適格機関投資家については、法人投資家及び個人投資家双方とも、そのリストが金融庁のホームページにおいて公開されます。http://www.fsa.go.jp/common/law/tekikaku/index.html  (日本語のみ)

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